イベント報告:6/20世界難民の日 シンポジウム「難民・移民と共に生きる社会を」
在日クルド人の言語や文化の多様性と誤解の解決を通して共に暮らす可能性
The Borderlanders Report 29th June 2026 by Stephen P. McIntyre. Edited by Miki Nose.
はじめに
2026年6月20日は世界難民の日、その夜7時から川口市のフレンディアで「在日クルド人と共に」主催の「世界難民の日」関連イベントが行われた。このイベントでは、在日クルド人がこれまでトルコで経験してきた、クルド語のはく奪と言語的文化的な同化主義、そして、日本で近年増えている排外主義の問題が取り上げられた。イベントには、ボランティアの方々もあわせて100名を超える方が参加しました。
「在日クルド人と共に」の温井代表のあいさつに続き、クルド文化協会のワッカス・チョーラクさんによる挨拶があった。チョーラクさんは、今、移民の国であるアメリカやヨーロッパ諸国では「難民を受け入れない方がいい」という意見が増えており、政府も難民に厳しくなっているという。しかし、「難民を受け入れるな」と言っている人は、難民が国を逃れる理由である戦争に反対していないことをチョーラクさんは指摘した。難民に来てほしくないのであれば、難民が国を逃れる理由にも反対する必要があるだろうと、戦争や国家による暴力については何せず、難民には厳しい偽善的な立場を批判した。
次に、能勢美紀さん(アジア経済研究所図書館ライブラリアン)と上野貴彦先生(都留文科大学准教授)による講演では、日本に滞在するクルド系難民・移民が直面する言語や文化継承の課題、また、多様化する日本社会の中で増えている排外主義の問題と、誤解を解くための取り組みの可能性が取り上げられた。
クルド語での執筆と継承について
能勢さんによる講演『クルド語で話し、書き、残すということ――言語と文化継承から考えるクルド人への理解』では、クルド人が直面してきたクルド語の使用に対する困難さと言語・文化継承の意義について触れられた。クルド系難民の出身各国(トルコ、イラン、イラク、シリア)では、国民国家形成とともに同化主義政策が行われる中で、それらの国の少数民族であるクルド人が使用するクルド語の使用に対しても抑圧が行われた歴史を紹介した。さらに、迫害、紛争、貧困や差別の影響によって難民・移民として逃れた先では、クルド語の継承における問題があると説明した。そのような状況の中で特にスウェーデンでは母語教育を通してクルド語による執筆や出版、継承の取組があることを紹介した。
また、在日クルド人の多くの出身国であるトルコでは、トルコ共和国建国(1923年)以降、国民統合のための同化主義的政策が続いており、クルド語の実質的な禁止は1991年まであったことや、その後も言語を含むクルド人の文化に対する制約等があることを紹介した。なかでも70年代や80年代に厳しい弾圧や迫害から逃れたクルド系難民・移民は、スウェーデンを含むヨーロッパ諸国に亡命した人が多かった。そして、本国では学ぶこともできなかったクルド語で執筆活動や語学教育ができる状況が、スウェーデン政府による母語教育支援によって可能となったことを紹介した。そのような環境が受け入れ国であるスウェーデンにあったからこそ、スウェーデンは中東諸国から逃れたクルド系難民・移民にとってクルド語の執筆活動や継承のための教育活動の重要な拠点となったという。
そして、クルド民族にとっては言語がその民族アイデンティティの重要な側面であり、出身国では同化政策を経験してきたからこそ、言語の継承を重視する人が多いという。しかし、日本など難民・移民として移動した先では、子どもたちはその国の国語を学ぶが、クルド語の継承が難しいという問題にも直面する。せめて子どもにクルド語の名前を与えることでクルド民族としてのアイデンティティを「旗」のように残そうとしているというクルド人による語りも紹介した。
日本に暮らすクルド系住民にとってもクルド語の継承は大きな課題の一つであることを取り上げ、スウェーデンの事例が示すことは、母語教育は何語で思考し、コミュニケーションをとるのかということだけでなく、民族的なアイデンティティともかかわることであり、同時に受け入れ社会との関係の中で変化し、あたらしい文化を築くために重要な役割を果たす可能性があることを示していると説明した。例えば日本の埼玉県で毎年開催されているクルド民族にとって重要なネウロズ祭りは、トルコでは政治的に問題になる行事としてクルド人として経験されてきたのが、日本で初めてそれを「春祭り」と経験することができたという語りがあり、日本はクルドの文化や言語表現が自由にできる場所であることも紹介した。ここでは、日本と日本社会との関係の中で、自分たちの言語や文化が再確認され、新しく経験しなおされていることがわかる。ただ、近年ではクルド人をターゲットとした排外的な行動によって、在日クルド人がネウロズ祭りにおいて自ら政治的な表現を自粛していることもあるという。
能勢さんの講演について
筆者のコメントとしては、複数の言語を若いうちに身に着けることに対して、日本や英語圏の国(例えばオーストラリア)では抵抗を示す意見も多く、いまだに教育制度が同化主義的だとも言える。スウェーデンは幼少期から教育制度の中で多言語教育が当たり前の国だと聞くが、能勢さんの話によれば母語教育を通して、出身国の「国語」だけでなく、難民・移民の少数派の言語の教育と継承、執筆活動が支持されていることが分かった。そしてそのことによって民族的なアイデンティティの継承だけでなく、受け入れ社会とのかかわりにもポジティブな影響があることを示す重要な発表だったと思う。
誤解を解き仲間を増やす可能性として「反うわさ戦略」
次に上野貴彦さんによる講演『「外国人受け入れ論争」から 課題解決の実務へ 摩擦から地域の関係性を編み直す 「反うわさ戦略」を例に』では、どうすれ外国人との摩擦や誤解を解消し、共に暮らせる社会が築けるのかについて話した。
まずは、川口市において在日クルド人に対するヘイトの問題が話題になっているなか、そこには難民性が高いクルド系住民の地域での生活と、外国人の排斥の二つの問題が同時にあると言う。後者の差別と難民と移民に対する排斥の問題について、どうするべきかということについて話し、この状況に対して、差別主義者をただ批判することや追い出すだけでは解決にならないことを指摘した。さらに、ファクトチェックでは不十分であり、誤解を解き、さらにかかわり続けることで仲間を増やす取り組みの重要性について詳しく解説した。
次に、世界各国で移民と社会の多様化が進む中で、それに対応する各国の取り組みの比較について解説した。そこで受け入れ社会の移民に対する政策には、積極的な多文化主義をとるべきか、放置して移民に社会統合を任せるべきかということが議論されている。しかし、専門家による調査を読むと移民の社会統合においてはそれらの政策には「大差ない」という。というのは、統合のための取り組みがあってもなくても、安定した暮らしができるようになれば社会統合は起こるという。本国とのつながりにおいても同じことが言えるという。移民(外国人)の社会統合に最も重要となるのは、生活の安定や経済的な基盤であり、そこで最も重要となるのが就職差別のようなバリアーとなるものをなくすことだという。
では、今川口で起きている排外主義や、それが他の地域でも話題になっていること、そして、「川口のようにはなっちゃいかん」というある地域の高齢者の発言に見られるような考え方に対しては、どう対応するべきか。これについては、まず、川口市のような、人口60万人程度の都市に、高い割合で外国籍の住民が居住している地域では、見かけるけど知らない、つながらない、という問題があるという。それは必ずある程度の接触が起こるが、接触だけでは偏見や不安が起こらないとは限らず、顔が見えるが、関りが無い場合には不安や不信感等につながることとなる。
活動家や支援者などは、情報が足りない、知らないから不安や偏見が増えると考えがちだが、それだけでは説明できないことがあるという。まずは、誤情報(統計などの誤読、デマ、切り抜き情報)はあって、確かにそれに対するファクトチェックは重要である。しかし、アメリカのトランプ支持者などに見られるような、行政やメディアといった制度への不信感が日本でも高まっていることで、それに対応するためには、ファックチェックだけでは不十分な場合が多いという。加えて、地域の人たち自身の生活上の不安(雇用・住宅・福祉をめぐる不安)があれば、移民や難民がスケープゴートになりやすい状況になりやすいという。また、ファクトチェックと関連して、移民が増えても犯罪率が上がらないという事実を示したとしても、実際に、犯罪とはいえないが、地元地域での摩擦や衝突が起きていると、そこから生まれる誤解や不信感が高まるという。正確な情報を示すことで誤情報や知識不足に対応する必要性はあるが、認知や感情的な側面もあって、それを無視することはできないという。
では触れ合えばいいのかというと、ふれあいを増やすことや、あるいは単純に若い人なら偏見が少ないから次世代に期待できるかというと、そういうわけでもなく、単純化することを避けるべきだと解説した。正確な情報が感情的な怒りや不安、制度への不安によって解消されないのなら、接触が増えるだけでよくなるかというと、そうでもない。接触が増えても、その接触のありかたによっては摩擦が起きて不安や不満につながってしまうという。また、若い人の偏見は少ないといわれているが、SNSの影響や身近な不満を感じている人も若い人の間で増えることもあると理解する必要があるという。そこで、正しい情報や正しい立場を押し通して、間違った考えを持っていると判断した人を追い出したりすることは効果的ではないという。むしろ、対話が壊れず、そして対話が継続できる条件を作る必要性があるというのだ。
ではどうすればいいのか。そこで反うわさ戦略(Anti Rumor Strategy)が重要になる。まずは、摩擦をつながりに反転する必要があるという。SNSやメディアにおいては、固定概念が持たれているものの方が炎上しやすい。なので、差別構造とヘイトの問題においては別の対応・法的措置が必要になってくるという。同時に、そして幸いなことだが、人を意図的に傷付けるひとというのは比較的少数者だという。多くの人はそこまで極端な考えや人を傷つけようという考えを持っていない。そこでそのような人たちとの対話を通した戦略が求められるが、そこで紹介しているのが、バルセロナなどで実践されてきた「反うわさ戦略」だ。
その戦略というのは、「反 anti 」反撃ではなく予防対策をとること。対立が深刻化する前に働きかける。「うわさ rumor」は単なるデマではなく、不安と誤解がまざった語りに対して正確な情報を提供すること。「戦略 strategy」においては、単発イベントではなく、継続的におこなわれる研修、配布される教材、ネットワーク、仕組みが求められる。
「正しい情報を出せば偏見は消える」から、関係と制度を編みなおす実践へ。
バルセロナはスペインの中の大都市であり、移民が多い都市であると同時に、スペイン国内の移民も多く居住する地域で、非常に多様なルーツを持つ人たちが住んでいる。そして、多様性から生じる摩擦や不満、排斥に対する地域の草の根団体や行政の取り組みとして、「反うわさ戦略」と呼ばれてきたものが実施されてきており、その実施と取り組みの事例を紹介した。誤情報に対する情報の提供のための資料の作成やキャンペーンのグッズの作成など取り組みは様々だという。そこで重要なのが多くの人を巻き込み、移民だけでなく、あまり移民とかかわらない住民も巻き込んで、そのような住民の抱える問題を含めて対応していく取り組みであるという。例えば、高齢者の編み物サークルで、キャンペーンのグッズを作成する事業に取り組むようにした事例を紹介した。そこで移民の問題とあまりかかわらない高齢者が抱える問題も同時に認識されるようになった。
上野さんはさらに、このような取り組みは専門家の役割が重要だという。バルセロナでは専門家をやとって住民に対する意識調査をして、わかりやすく答えられるように調査しているという。なので、住民が抱えている不満や不安、外国人に対する認識や摩擦の現状を正確に把握することが大事だという。また、人びとのつながりを促すことや摩擦においても対応するには仲介者の役割が非常に重要であることについて話した。バルセロナではソーシャルワーカーをメディエータ(仲介役)として雇っているが、その役割は行政と民間の機関等をつなげる役割も果たしている。「問題があるのに相談できる場所がない」という問題を解決するために効果的だというのである。上野さんは日本においては、例えば社会福祉協議会と繋がっている人などがそのような役割を果たす必要があるいう。
スウェーデンの話との関連では、郊外団地での反うわさ戦略の取り組みがあるという。能勢さんのトークでも触れられていたよう、スウェーデンでは図書館や地域づくりの取り組みが多くこれも移民を含む住民同士のつながりに貢献している。まずは敵を増やすのではなくて、仲間を増やさないといけない。日本のなかでいろいろやっているが、やりかたはいろいろある。そこで、困ったときに誰かとつながれる場が重要だと上野さんは指摘する。川口市のような都市では、日本人同士でもよそから来た人が多い。
反うわさ戦略にはできることとできないことがある。できることとしては、迷えるマジョリティの入口づくり、不安と摩擦を対話可能にすること、専門職の仕事を可視化すること、統合政策の裾野を広げること。できないこととしては、ヘイトクライムを直接処罰する、雇用・住宅差別を単独でなくすこと、当事者の権利要求を代替する、または、低コスト実践だけで構造を変えること。それらには反差別法制、当事者のエンパワーメント、仲介の制度化、アクセス保障などが必要となる。しかし、これらの欠けているものを可視化することはできるという。
まずは何ができるかというと、新しい「共生事業」を増やす前に、既存の地域活動に小さな接点を置くことから始めるとことができるという。学校や図書館、子育ての場、学校やスポーツを通してつながりをふやすことができる。また、困りごとだけでなく、うまくいった成功例についても、記録とその共有の場を作ると良いという。
上野さんの講演について
上野さんの講演は、地域での不安や摩擦の問題において、どのような取り組みが必要かつ効果的かという情報が多く含まれた貴重な話だった。また、ヘイトや排斥については、地域行政や支援者、活動家ができることの限界があり、法的措置の重要性も指摘された。例えば、現在、裁判所でクルド人に対するヘイトの問題を、ヘイトの被害にあっている在日クルド人が中心となって訴えている。この日のイベントでもヘイトを規制する法的措置の必要性が改めて指摘された。同時に、ヘイトにつながる不安や摩擦の問題に向き合う取り組みの重要性が指摘され、それは非常に重要なことだった。そして、草の根レベルのボランティアを中心とした民間団体だけでは、十分にできることではないことが指摘された。今後の行政による「反うわさ戦略」のような取り組みの必要性と専門家の知識や技術を用いた事業の必要性を感じさせる講演であった。
筆者の研究では、入管の対応が在日クルド系難民・移民の暮らしや人生に及ぼす影響について研究し、難民と認めず、人道的な理由で「在留特別許可」という安定した在留資格を与えることもしてこなかったことが問題であると強調してきた。排外主義者の多くは逆に在日クルド人がすべて「偽装」難民で犯罪者であるかのような言説から攻撃しているものが多い。在日クルド系難民・移民の状況の複雑性等についての説明や解説が必ずしも効果的ではないということが改めて分かった。同時に、対話を続けて、在日クルド系難民・移民について知り、誤解を解くことで仲間を増やすことの重要性が強調されていた。筆者も対話の重要性を認識していたが、改めて対話を続けることが大事だと思える機会となった。
おわりに
能勢さんの話と上野さんの話を両方聞いて思ったのは、コミュニケーションの可能性を作ることの重要性である。クルド人は日本という国に逃れて、安心してクルド語を使い、クルドの文化を共有できる場所を手に入れた側面がある。スウェーデンの事例が示すのは母語教育に対する具体的な公的支援があればそれがコミュニティーだけでなく受け入れ社会にもよい影響を及ぼす可能性があることである。逆に、摩擦や不安が高まれば、地域住民から理解されず、むしろ不審に思われ、排斥の矛先になる可能性がある。それに対応するための取り組みとしては、誤解を解くための対話、コミュニケーションを通して仲間を増やすことが重要であることである。
閉会のあいさつでは、「在日クルド人と共に」の理事である周香織さんがクルドのことについて知り合いと話していた時に、周りの人にも聞こえるように話したことで、ちょっとした反うわさ戦略に取り組んだと話してくださった。身近なところから、デマや誤情報に反論し、クルド人や他の外国人住民(私もその一人だが)との日常的な良い関りについて話すのも重要だろう。また、最後に蕨市で毎週行われている日本語教室に参加しているクルド人女性が日本語であいさつし、日本語を勉強して、日本人の友達を増やすことができたことがとてもうれしいと話してくださった。言語の勉強によって日本社会の中でのコミュニケーションを可能にし、人と人とのつながりを可能にするのが非常に重要であり、さらに日本語教室という取り組みと場所が、人間関係を深める場所でもあり、「反うわさ戦略」の重要な事業だと改めて感じさせられた。
関連資料・情報
能勢美紀.2025「クルド語で話し、クルド語で書き、それを出版して残すこと 」『ライブラリアン・コラム』 日本貿易振興機構アジア経済研究所.1-6.https://www.ide.go.jp/Japanese/Library/Column/2025/0418.html?_previewDate_=null&revision=0&viewForce=1
上野貴彦.2025「「制度なき統合主義」と日本社会―難民的背景をもつ移住者を含む外国人の定住をめぐる葛藤から考える」『難民研究ジャーナル』15:5-21.
上野 貴彦 .2024「「共生」をつくる人を育む バルセロナとビルバオの反うわさ戦略から」『国際人流』11. https://www.cinga.or.jp/cinga/wp-content/uploads/2025/09/6e21c344a6c539c11253353b2e2fe77a.pdf
ダニエル・デ・トーレス・バルデリ.2018『反うわさ戦略のつくりかたAntirumours Handbook 2018日本語ダイジェスト版』上野貴彦[日本語版翻訳・編集]欧州評議会.https://www.clair.or.jp/tabunka/portal/efforts/docs/d6e5742552b64c640c8cb8719377f5fb_1.pdf
2026年6月29日(投稿)
執筆:マキンタヤ スティーブン (「在日クルド人と共に」の正会員。一橋大学大学院社会学研究科博士課程。東洋大学ほか非常勤講師。専門は難民・移民研究)
編集:能勢美紀 (ライブラリアン)
写真:在日クルド人と共に提供





